辻村みちよ(1888〈明治21〉~1969〈昭和44〉年)というかたをご存知ですか?
わが国最初の女性農学博士にして、お茶の栄養を発見した「お茶博士」です。
辻村博士は、埼玉県の足立郡桶川宿(現桶川市)に生まれました。東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)理科、北海道帝国大学の食品研究室を経て、東京帝国大学医化学研究所に移り、関東大震災(1923〈大正12〉年)を挟んで同大理化学研究所に。大震災のときは、当時たいへん貴重だった精密機器である化学天秤だけを抱えて研究所から逃げ出したそうです。芯から研究者ですね。
緑茶の研究を始めたのは、理研に移ってからです。辻村博士はまず、緑茶にビタミンCが含まれていることを発見しました。
当時は、外国人学者によって「緑茶にビタミンCは存在しない」とする研究結果が出ていました。これは「沸騰したお湯で5分間煮出す」という実験だったため、ビタミンCが溶けてしまっただけである、と現在では見られています。
辻村みちよは「日本でお茶を飲むときのように、60度前後のお湯で1分間煮出す」という方法で実験をし、ビタミンCが含まれていることを立証したのです。
昔からの日本式の飲み方が、おいしくて体に良いということが科学的に立証された瞬間とも言えるでしょう。
「家ではお茶ひとつ淹れない」という男性研究者だったら(当時はそれが男性として当たり前の姿でしたからね)、「いつも淹れているお茶で実験する」という発想はなかったかもしれません。
続いて辻村みちよは、カテキンを取り出すことに成功。さらにタンニンの結晶を取り出し、化学構造を明らかにしました。1932(昭和7)年には、これらの成果を論文『緑茶の化学成分について』にまとめ、研究室の教授の紹介で、東京帝国大学農学部に提出したのです。
論文審査会では、
「これは農学ではなく化学の研究ではないか。理学部で審査するべきではないか」
という声もあったそうですが、
「このような立派な研究に農学部から学位を授与するのは、農学部の名誉である。農学部の大いなる発展にも繋がる」
という意見が出て、満場一致での農学博士号授与となったそうです。わが国初の女性農学博士の誕生です。
お茶がいろいろな面で良い飲料であるというのは、いまでは当たり前のように思われていることですが、辻村博士という女性の活躍があったのですね。
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参考:「辻村みちよ資料目録」お茶の水女子大学ジェンダー研究センター