イチゴの「とちおとめ」「あまおう」、米の「ササニシキ」「コシヒカリ」などのように、お茶にも品種があります。
最も多く栽培されているお茶の品種が「やぶきた」です。
いまや全国の8割の茶園で栽培されている優良品種「やぶきた」は、1908(明治41)年に静岡県で発見されました。発見したのは現在の静岡市に生まれた杉山彦三郎(1857~1941)という人物です。
彦三郎翁が、
「お茶の樹には良い樹とそうでない樹がある。良い芽をつける樹ばかり選んで植えれば、良いお茶がたくさんとれる」
ということに気付いたのは20歳のころ。
今でこそ当たり前の考え方ですが、それまで、我が国のお茶栽培の方法は、ただ「どんどん植える」だけでしたので、この発想はまさにエポックメーキング。
彦三郎翁は良い芽をつけるお茶の樹を求め、近隣の茶園を歩くだけでなく、関東や九州にまで旅し、枝を分けてもらっては集めました。
そんななか、静岡市谷田にある、竹やぶを開墾した茶園で、良さそうな2本の樹を発見したのは1908年のこと。竹やぶ茶園の南側から選抜した樹を「やぶみなみ」、北側から選抜した樹を「やぶきた」と名づけ、実験と観察を続けたところ、「やぶきた」が非常に優れていることが分かったのです。
彦三郎翁は、やぶきた以外にも、生涯で100種ほどの優良品種を世に紹介しました。
残念ながら、翁の存命中にその業績は評価されませんでしたが、戦乱、戦後の食糧難時代ののち、1953(昭和28)年には農林省(当時)から「奨励品種」の指定を受けました。以来「やぶきた」は、茶農家には安定した収穫を、お客さまには高品質の味を提供しつづけています。
原樹は1963(昭和38)年に静岡県の天然記念物の指定を受け、静岡県立美術館の北側入り口に移植され、今も元気にしています。静岡にお越しの際は、ぜひお立ちよりください。もちろん、小野園にも遊びにいらしてくださいね。おみやげにおいしい深むし茶をどうぞ!