チャイコフスキーの三大バレエと言えば、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』。
いずれも、クラシックバレエの代名詞のような作品です。
この中の『くるみ割り人形』に「お茶」が登場することをご存じですか。
【物語】
少女クララ(「マリー」の版もあり)と兄フリッツの家でクリスマスパーティーが開かれています。パーティーに招かれた、クララとフリッツの友人たちとそのお父さんお母さんたちが続々とやってきます。
クララの叔父さん(お父さんの友達という版もあり)ドロッセルマイヤーさんが、クララにくるみ割り人形をプレゼントしてくれました。
パーティーも終わり、ベッドに入るクララとフリッツ。クララは居間に置いてきたくるみ割り人形が気になって、ベッドを抜け出し、そっと居間へ。
そこでは、くるみ割り人形と兵隊の人形たちが、ねずみたちと戦っていました。クララは勇気を出してくるみ割り人形に加勢します。
クララの加勢によりねずみとの戦いに勝利したくるみ割り人形は、王子様の姿になり、クララをお菓子の国へ招待します。
二人が出発すると雪が降りはじめ、雪の女王と雪の妖精たちによる華麗な群舞やコーラスが繰り広げられます。
そうしてお菓子の国に到着すると、いろいろなお菓子の妖精たちが踊りを披露して二人をもてなします。
チョコレートの踊り、コーヒーの踊り、お茶の踊り、トレパック(大麦糖)の踊り、ミルリトン(葦笛、またはアーモンドタルト)の踊りと続き、最後は金平糖の精と王子が踊ります。
朝が来て、クララはベッドで目を覚まします。すべてはクララの夢だったのでしょうか――。
お菓子の踊りにはそれぞれ、国の名前もついていて、チョコレートの踊りは「スペインの踊り」、コーヒーの踊りは「アラビアの踊り」、お茶の踊りは「中国の踊り」、トレパックの踊りは「ロシアの踊り」、ミルリトンの踊りは「フランスの踊り」。もちろん、振付もその国に合ったものになっています。
注目したいのは、クララと王子をもてなすために選ばれたお菓子の中に「お茶」が入っていることです。数多くあるバレエ作品の中でも、お茶がキャラクターになっているのは『くるみ割り人形』ぐらいではないでしょうか。
チョコレート(ココア)やお茶、コーヒーは当時、高級品で、王侯貴族だけが飲めるものでした。王子と、王子の大切なゲストであるクララのために、貴重なお茶が用意されたのでしょう。
「お茶の踊り」の別名は「中国の踊り」ですが、この作品が成立した当時、ヨーロッパから見る中国は、遠い遠い国でした。そのため、衣装や振付は「中国に行ったことのないヨーロッパ人が想像した中国」に基づいていました。
近年ではそういったバイアスの見直しや修正が進んでいます。中国の伝統演劇「京劇」の衣装を参考にしたり、振付や設定を独自のものに変更したりして、かつてのヨーロッパ人が中国に対して抱いていた神秘的なものへのあこがれは残しつつ、解釈をアップデートしているバレエ団も多いようですよ。
クリスマスのお話なので、年末に公演されることが多い『くるみ割り人形』。
息の合った美しい群舞あり、ダンサーたちの表現力をたっぷり楽しめるパ・ド・ドゥあり。日本でもテレビCM等で使用されてみんな知っているような曲がたくさん流れ、さまざまな衣装やキャラクターが次々と登場し、大人も子どもも楽しめる作品です。
機会があったらぜひ、見てみてください。
これまでの「芸術の中のお茶」はこちら
【芸術の中のお茶 -2 歌川広重「東海道五十三対 府中」 – 小野園コラム】
https://onoen.jp/column/column_151.html
【芸術の中のお茶 -1 歌川広重「東海道五十三次 袋井 出茶屋ノ図」 – 小野園コラム】
https://onoen.jp/column/column_138.html
※お菓子のファンタジーに彩られた『くるみ割り人形』 – 新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/15nutcracker/column_03.html